『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』を読もう
作家・松岡圭祐による推理シリーズ『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』を紹介します。
松岡圭祐のエンターテイメント小説です。松岡氏は『万能鑑定士Q』や『千里眼』でおなじみの作家です。筆が早いことでも有名で、第1巻が出版されてから2年足らずで第10巻を超えました。
主人公は、新人作家の杉浦 李奈(すぎうら りな)。まだまだ駆け出しの作家が様々な事件やトラブルに巻き込まれていきます。はじめは慌ててばかりだった李奈が少しずつ推理も冴え、度胸もついてきました。さらに松岡作品の有名キャラクターが登場するという嬉しい内容となっています。
この記事では、既に10巻以上出ている本シリーズの魅力を紹介します。
「écriture(エクリチュール)」
書くこと。書き方。書く言葉。また、書かれたもの。
岩波書店『広辞苑 第七版』より
松岡圭祐 小説の2つのパターン
松岡氏のシリーズ小説には2種類あります。
・『千里眼』のようなアクション小説
・『万能鑑定士Q』のような推理小説
どちらも人気シリーズです。どちらも面白いです。しかし、読み手にとって好みが分かれます。それは「アクションや暴力シーンを許容できるか?楽しめるか?」という問題です。楽しめるのであれば、どちらのシリーズでもOK。楽しめないなら『万能鑑定士Q』シリーズをオススメします。
読む順番は?
読む順番は、出版準に読むのが一番良いです。無印の『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』が一番最初で、あとは数字の順番で読み進めると楽しめます。
オススメのポイント
本シリーズのオススメポイントは3つあります。
・文学の豆知識がたくさん出てくる
・主人公が成長していく
・エンターテイメント性
文学の豆知識がたくさん出てくる
シリーズを通して、文学作品の豆知識や引用がたくさん出てきます。文学好きにはたまらない内容。非常にマニアックな内容もあり、文学の謎と事件の謎が絡んでいく不思議なストーリーです。
主人公が成長していく
主人公は新人作家の若い女の子です。はじめは自己評価も低かったのですが、取材や事件を経験しながら、作家としても人間としても成長していきます。そこに描かれていくリアルな姿に共感してしまうのです。
エンターテイメント性
松岡圭祐氏の作品ですので、もちろん「エンターテイメント性」はあります!『高校事変』や『探偵の探偵』のように敵を なぎ倒していくシーンはありません。しかし、『万能鑑定士Q』のように、知識や推理力で犯人の悪事を暴いていきます。それが読んでいて気持ち良いのです。
もちろん、ミステリーとしての構成や、二転三転するストーリー展開も、いつもの松岡圭祐作品同様に読者を引きつけます。
シリーズの紹介
魅力的な主人公の成長譚である『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』。このシリーズの現在出版されている本の紹介をしていきます。
本シリーズでは第2巻以降『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 ○○』というように「○○」の部分にサブタイトルがつきます。第1~2巻は『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』のみの表記です。紹介タイトルは略してあります。
第1巻『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』
若い作家の男が とある本を盗んだ疑いをかけられて行方不明になります。新人作家の杉浦李奈が、その作家・岩崎翔吾の失踪事件を追います。
文学界や出版業界の裏側がリアルに描かれています。李奈は どのようにして真実にたどり着くのでしょうか
第2巻 『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅱ』
とある女の子が行方不明になります。事件を解決するために奔走する李奈。事件の背景には複雑な人間関係や社会問題が絡んでおり、感情豊かな描写と緊張感のある展開が読者を引き込みます。
第3巻 『クローズド・サークル』
絶海の孤島に9人の小説家たちが集まりました。孤島で繰り広げられるクローズド・サークルミステリ。各作家の個性や動機が巧みに描かれています。緻密なプロットと意外な結末が読者から評価されています。
第4巻 『シンデレラはどこに』
シンデレラに原典があるのを知っていますか?その原典を巡る謎解き。古典文学への深い知識が繰り広げられます。物語の中で文学作品の解釈や分析が行われるので、知的好奇心を掻き立てられます。一体、シンデレラの物語に関する謎とは どのようなものなのでしょうか?
第5巻 『信頼できない語り手』
『万能鑑定士Q』の莉子が登場します。日本小説家協会の懇親会で起きた大規模な火災。小説家をはじめ多くの出版関係者が亡くなりました。現場には放火の痕跡が。ネット上で“疑惑の業界人一覧”が登場し話題になるのですが、その中には李奈の名前も・・・。
万能鑑定士Qとのクロスオーバー作品。異なるシリーズのキャラクターが共演することで、ファンにとっては特に楽しめる内容です。
第6巻 『見立て殺人は芥川』
誰もが知っている昔ばなし『桃太郎』。あの芥川龍之介も『桃太郎』を書いていました。芥川版『桃太郎』と殺人事件を絡めた見立て殺人。文学的要素が強く、芥川龍之介の作品を知っているとより一層楽しめる内容です。
第7巻 『レッド・へリング』
今度は『新約聖書』。本シリーズは小説だけにとどまりません。
小説家として新たな一歩を踏み出そうとしている李奈。しかし、彼女は嫌がらせや脅迫を受けるようになってきました。李奈はこの受難をどう切り抜けるのでしょうか?
丸善版・新約聖書の謎を解く物語。少し難しい内容ではありますが、宗教的なテーマが新鮮です。宗教や歴史に興味がある読者にはオススメです。
第8巻 『太宰治にグッドバイ』
太宰治の幻の遺書が発見されます。作品の名前は『グッド・バイ』。本当に太宰治が書いた作品なのでしょうか?太宰治の作品や生涯に詳しい読者にはたまらない内容となっています。太宰の文学世界に深く入り込むことができます。
第9巻 『人の死なないミステリ』
鳳雛社の奇妙な社内小説を題材にしたミステリ。人が死なないミステリとして異色の作品で、ユーモアや風刺が効いた内容が特徴です。
売れるためなら登場人物を病気で亡くす。お涙頂戴が売れるキッカケ?圧力をかけてくる担当者に李奈はどう立ち向かうのか?読んでいて李奈(というか松岡氏)の作品に対する強い思いを感じる一冊。正直、中だるみはしますが、最後まで読み切ると「面白かった!」となる作品。
第10巻 『怪談一夜草紙の謎』
岡本綺堂の小説通りの事件が発生。岡本綺堂の怪談に見立てたような事件が起こるのです。そんな怪談要素が加わり、ホラー好きにもおすすめの一冊です。岡本綺堂は『半七捕物帳』の作者です。恐怖とミステリが融合した独特の雰囲気が楽しめます。いつのまにか李奈が いろんな意味で成功しているのにビックリ。
第11巻 『誰が書いたかシャーロック』
李奈が“とある賞”の候補になったことを知らされます。さらに、英国大使館からコナン・ドイル著『バスカヴィル家の犬』の謎の解明を依頼されます。この謎の解明がどのように進むのか?そして無事に賞をとることができるのか?数々の事件を経て、すっかり肝が据わってきた李奈。そこに莉子も登場して・・・。
まとめとして
今回は、松岡圭祐『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』を紹介しました。新たなるヒロイン登場です。感を重ねるごとに、作家として、人として成長していきます。読んでいるとハラハラしますが、そこは松岡作品。最後はスカッとするラストが待っています。この後どうなるの?という感もありますが・・・。
暴力やアクションに頼らない謎解きミステリ。オススメの小説です。
よかったら参考にしてみてくださいね。